「アートで生きるには、できるかできないかじゃない。気持ち一つだよ。」文字と筆と紙で生きていく、墨書家にインタビュー①



「先が見えなくなって、苦しかったときもあった。」

 

アートで生きる、好きなことで生きると考えるとき、

「そんな生き方できるの?」

「具体的にどうしたらいいかわからないし、無理だよ…。」

そんな風に考えてしまいがちです。

 

今回お話を伺った筆文字屋 白晃(はっこう)さんは、

活き活きとご自身のやりたいことで前進している素敵な女性ですが、

やはり過去には様々な葛藤・苦悩があり、乗り越えてきたそうです。

 

大好きな筆との仕事をつかんだという、

白晃さんの今までの経緯や、苦悩の乗り越え方について伺いました。

 

書は、自分にとって“心の浄化”。スーッと心が癒された。

相原

書道とはどういった出会いだったのですか?

白晃さん
書道は7歳の時から習っていて、23年間続けていました。

ところが、30歳のときに、ずっとお世話になっていた先生がけがをされてしまって…。

相原
23年間!かなり長い間書道を習っていたのですね。

先生のけがは悲しいことでした…。

その後は別の先生のもとで習ったり、自分で書いたりしていたのですか?

白晃さん
いいえ、その後2年間は書道から離れていました。

でも、ぽっかりと空いた穴のようなものを感じていました。

ずっと続けてきた習慣がなくなった感じ。

日々の歯磨きがなくなるような、不思議な感覚でした。

相原

歯磨きと同じくらい、書道はあって当たり前の存在だったのですね。

白晃さん
そうだったみたいです。

無くなってみて初めて、やっぱり書くのが好きだったんだって気がつきました。

それから、タイミングがあって久しぶりに書いてみたのですが、なんだか心がスーッとしたんです。

心が浄化されていくのを感じました。

相原

心の浄化…。素敵な体験ですね。

白晃さん
その瞬間、すごく心地がよくて。

心が癒されていくのを感じました。

わたしはやっぱりこれをやりたいんだなって。

 

そしてこれは、自分以外の人もそう感じるかもしれないと思いました。

相原
その時感じたものがあったから、ワークショップなどで他の方に体感してもらいたいと思ったのですね。
白晃さん
そうですね、そうやってつながってきました。

今は、面白い筆の教室というか、誰かの居場所になればいいなと思っています。

身体と心が憩う、ほっとできる場所。

または、つくる楽しみを共有できたらいいなと思っています。

相原

2年間のブランクがあったからこそ、改めて書の魅力に気が付いたのかもしれませんね。

ワークショップを行ったら、たくさんの反応が返ってきた

相原

そこから、どのように活動を始めたのですか?

白晃さん
ハンドメイドのイベントがあって、そこに出店してみたんです。

やってみたい!と思って、ワークショップを行ったり、小さな作品を販売したりしました。

相原
少しずつワークショップや作品発表を始めていったのですね。やってみてどうでしたか?
白晃さん
人を相手にやってみると、色々な反応が返ってくるんです。

喜んでくださったり、買ってくださったり…。

収益的なことは別として、誰かの笑顔が見られたり、誰かの心を感じられたりする素敵な時間でした。

相原

直接反応が返ってくるというのは、とても楽しそうですね!

白晃さん
はい。そして、そのイベントやその頃出会った人々とのご縁で、だんだん声をかけてもらえるようになりました。

そうやって自分から動いてみたら、ご縁がつながったのです。

相原

自分から動いた結果、縁が広がったのですね。

白晃さん
そうです。現在は、そうやってつながった方々と仕事をすることができています。

本当に多くの方に支えられてここまでくることができました。

大変感謝しています。

相原

「ご縁」というのは、白晃さんにとって重要なキーワードのようですね。

白晃さん
出会いは大事にしたいと思っています。

お金で買えない、つむいでいくもの。そこには努力がいります。

“人と人”という点どうしだったつながりを、線にしていきます。

相手のことを思っているなら、行動する。

口にしたり、会いに行ったり…表明しないと伝わりません。

相原

時に、人とのつながりは辛いこともあると思いますが…

白晃さん
相手から否定的な答えや行動が見られたとしても、あきらめない。努力は必要です。

失敗したり、トラブルがあっても、「ごめんなさい」と「ありがとうございました」を心から言える素直なところがあれば、つながっていけます。

こちらから気持ちを伝える勇気は必要です。

先が見えなくなって苦しかったときもあった。でも、自分をさらけ出すことで前に進めた。

相原

きっと色々な苦難を乗り越えてこられたのだと想像されます。

どんな大変なことがありましたか?

白晃さん
先が見えなくなって苦しかったときはありましたね。

「こうなりたい」という理想の自分に向かって、どうやって頑張ればいいかわからない。

正しい道が見えないんです。

作風もどんなふうにしたらいいか、行き詰まりを感じて立ち止まって…。

相原

白晃さんの場合、誰も導いてくれるわけではなく、全てはご自身次第ですもんね。

白晃さん
そうですね。でも、ある時気づいたんです。

「できることを精一杯誠実に行い、等身大の自分をさらけ出していくしかない」って。

相原

自分をさらけ出していく。

(白晃さん作「水無月」)

白晃さん
そう。少し悩んだものだったとしても、とりあえず誰かにだしちゃうんです。

自分だけでももっていても、何も進まない。

誰かにだして、反応がある。反発もある。

出して初めて色んな出会いがあります。

もっとブラッシュアップしたいから、怖がらずに「自分をだしていく勇気」を持つ。

それができてから進むようになっていきました。

相原

自分の中で少しでも悩みがあるものを出すのは、なかなか勇気がいりそうです。

しかし、やっぱりさらけ出すことが大事ですか?

白晃さん
そうですね。ありのままを外に出すことで浄化され、整理されていきます。

そして、そのままをだすんじゃなくて、一度客観的に見ようとします。

出したものを今一度飲み込んで、精査して、浄化して、作品をつくりだす。

そういうことが必要だと、今は思います。

相原

外からの視点も取り入れならが、精査しながら、作品を作り出していくのですね。

白晃さん
はい。そうやって、自分の殻に閉じこもらず素直に進み始めたら、一歩一歩進めるようになっていきました。
相原

ちなみに、、、この仕事はしたくないなと思うことってありましたか?

白晃さん
そうですね…どうしようかなとか、うーんと思う瞬間はあったかも。

モヤモヤを抱えたままではいいお仕事ができないと思った場合、お断りしたこともありましたね。

逆に収入に直結しなくても、ワクワクしてやりたいと思うことはお受けします。

 

(ワークショップの様子。(左)様々な筆の使い方の練習をします。(右)外で筆をふって青色のしぶきをつけました。)

相原

収入になるかどうかではなく、やりたいかやりたくないかで進んできたということですね。

白晃さん
自分の中に答えはあると思っていて。

わたしは、自分の直観を信じます。

もちろん嫌にもレベルがありますよ。

多少嫌なことはあるし、それはちゃんとやりますが、「魂が本当にいやなことはやらない」です。

こういうことは絶対面白い。わくわくする。」ということは、収益のことはあまり考えずにお受けすることが多いです。

でも、そういうことは結果的に収入につながったりするんですけどね。

今の若い人には、魂からやりたいと思う方へ進んでいってほしいと思います。

全てをさらけ出すことで生まれる出会いや、見える反応がある。

その出会いや反応が、また自分のパワーになる。

「好きなことで生きていく」ということは、こういう循環があってこそと感じました。

次回インタビューでは、母親としての姿、そしてアートの世界を志す若者へのメッセージについて伺います。